あなたに1番似合う色 ーー KISSIN' MY LIPS / Snow Man

「好き」という感情は、時に少し後ろめたい。

だから私たちは、ちょっと笑いながら「好きになっちゃったかもしれない」と口にする。「なっちゃったかもしれない」には、「なっちゃった」と「かもしれない」という二重の予防線が張られている。誰かに茶化されても、止めなよとたしなめられても、ひどく傷つかないようなラインが2本引かれている。

「好き」に対してあれこれ言い訳していると、そのラインがどんどん濃くなっていく。好きじゃなかった自分にいつだって戻れるように、冷静さを失わないように、ぐりぐりと何度もラインを引き直す。

それは過去の経験ゆえの行為かもしれないし、過去に経験がないゆえの行為かもしれない。「好き」は痛い。そのうえときどき怖い。


銀色の髪をした男の子が、遠くから大股で歩いて来る。いつ現れたのかわからない。名前も知らない。あっという間に距離を詰めて、濃く引いた2本のラインをひょいひょいと踏み越えてこっちへ来る。靴裏でこすれてにじんだラインの上に、彼は引きずってきた椅子を置く。そして話を始める。


この曲は、徹底して「僕、俺」対「あなた」だ。「僕たち、俺たち」対「ファンのみんな」ではなく、それぞれ椅子に座った一人の人間同士が、他に何もない薄闇で対話する。

真面目な顔しちゃって、と茶化してみても、過去の話をしてみても、それはもういいよと一蹴されるだけ。今の話を聞かせてほしい、と言って立ち上がらない人を、ラインの向こうへ追い出すのは至難の業だ。それに気付いたときには、もう遅い。白状するしかない。好きなんだと言うしかない。


華々しく世界に放たれた彼らを目にして、「好きになっちゃったかもしれない」と思った人はあちこちにいるだろう。ちょっと笑いながら気持ちをズラして、そうなっちゃったらどうしよう、と冗談めかした人もいるだろう。それを冗談にさせないために、彼らは一人一脚の椅子を持ち、秘密を教えてよと迫る。ヒリついた本気の「好き」を引き出すために、あなたに一番似合う色は自分だよと示して見せる。そして、「あなたが好き」と言い切ってしまったとき、唇は新しい色に染まっている。今までつけてもみなかった色の口紅が、自分の唇にのっている。


椅子が9脚並んでいる。これは彼ら一人一人があなたと話すためにある椅子で、それは運命なのかもしれない。

「Something new」とはあなた自身だ。あなたが彼らを見つけたのではなくて、彼らがあなたを見つけたのだ。そう感じるにふさわしい予感が、この曲には詰まっている。

 

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