口だけ星人

今年の10月末ごろ、葉っぱが落ちるみたいにポロッと転職が決まった。あれだけ転職したい転職したいと思っていたわりには、いきなり決まった。急いで準備して急いで引っ越して、私の秋以降は猛スピードで過ぎていって、やっとひと息ついている今、すでに2020年が終わろうとしている。

この数か月、ほとんど何も書けなかった。何か書いたら、やらなければならないことが頭からこぼれ落ちそうだったので、ここ数年で一番何も書かない時期だった。車を売って、読み終わった本を処分して、友だちや知人にさよならを言って、それなりに自分の周りを片付けてから大阪へ来た。

大阪は何度も遊びに来ていた街だったけれども、住むのは初めてだ。京都より住みやすい感じがする。個人的な感じ方だけど……。住んでいる町には、近くに安いスーパーがあって、ドラッグストアがあって、繁華街からは適度に離れているけれども遠くはない。パトカーのサイレンも救急車のサイレンも、少し遠くから聞こえてくるので、逆にいい感じに感情を凪にしてくれて助かる。

新しい人との出会いがあった。「同期」と呼ばれる人ができたのは、生まれて初めてだった。彼女は私とは全然違うタイプなのに、居心地がいい。この人は私にないものばかり持っているなと感じるけれども、劣等感を刺激されない。さっぱりしてぴりっと辛い性格の彼女のことがとても好きだ。仕事仲間なので、お互いぺっとりくっつかないのもいいのかもしれない。いい人だから、長く付き合えればいいと思う。

なんだか改めて、社会に出たなぁと感じる。家族や知人の庇護のない場所へ、自分で望んで来た。もう私のことを「○○さんの娘さん」と言う人はいない。

この世情なので、年末の帰省はかなわなかった。実家へクリスマスケーキを、施設で暮らす祖母にお菓子を送った。カードも添えて。祖母は母伝いにお礼を言ってくれた。直接私に電話をすると泣いてしまうから、と言っていたそうだった。

祖母はもう高齢で、会うたび小さくなっていく。幼い私を一日中預かってくれていた祖母は、もうどこにもいない。せめてたくさん顔を見せようと思っていたけれど、今年は感染症の影響もあり、家族であっても長時間の面会はできなかった。そうこうしているうちに転職と引っ越しが決まり、最後に祖母に会うため施設へ行ったときは、窓ごしに10分程度話しただけだった。

祖母は、こみねちゃんがずっと地元にいてくれればいいのに、と言っていた。そういうことを他の人に言われていたら、私は腹が立っていたかもしれない。私の人生なんだから私のやりたいようにやるよ、と思っていたかもしれない。でも、祖母にそう言われると、何も言えなくなってしまう。祖母がいついなくなってしまうかわからないのに、傍から離れる自分のことが、ひどく人でなしに思えてしまう。

一人で暮らし始めてから、私はルーツから離れて生きていけないんだなぁと強く実感する。それが世の理なのだというより、私が単にそういう人間なだけだ。私は自分のルーツについてすごくナイーブで、いつだって気にしてしまう。そういう人間だから仕方ないのだ。

クリスマスケーキと一緒に、ショッピングモールで見つけた猫用のおもちゃを、実家の黒猫に送った。遊んでくれるか心配だった(買ってきたおもちゃで遊ばないことがよくあるので)けれど、先日思いっきり遊んでいる動画が母から送られてきた。

猫は私がいなくなったことに、気づいているんだろうか?動画の中の猫はかわいくて、いつまでも元気でいてほしい。猫だけでなく、離れて暮らしている人みんなにそう思っているけれど、今の私ではまだ「口だけ」だ。